清潔な扉


 

  清潔な扉

清潔な扉がある。傍らには隣人の姿を模したサイン。わたしの表皮は限りなく隣人のよう、だけれどいいんだろうか。おずおずと扉をくぐる。清潔な扉は機械的に、わたしたちを望ましい隣人として型抜いてくる。声はあふれて落ち葉のように積み重なっている。

扉の先には電子の水辺。鳥の姿はないけれど囀りはきこえる。わたしはよく磨かれた椅子へ、外に置き去りにされた残滓は金色に輝く山へと向かったようだ。背を越す高さのススキの、けもの道の先に少年たちの秘密はあって、いつもわたしだけが引き留められた。

あなたは……なので。
あなたは……ではないので。

シーグラス。クマゼミの抜け殻。オシロイバナの実。黒曜石。あるいは一角獣の角。辿りつけなかったひかりを含む気配。それを新たに集める過程でピーコックグリーンのカーテンを手に入れた。ガラス窓の境界でカーテンは浚ってゆこうとする力をとどめてくれる。

天井に差し込んでくる光の帯を辿って、わたしは交流する。あやとりみたいなやりとり。そのときたましいはあいまいな姿を許されている。あいまいな。忘れないで。椅子から立ち上がり、手を洗い、清潔な扉をふたたびくぐる。たましいは脱力してゆっくり息を吐く。

人気の投稿